私はかつて気胸になり、12日間の緊急入院を余儀なくされたことがあります。
気胸とは:
- なんらかの原因で肺から空気が漏れ出て、肺がしぼんでいってしまう病気。
- 若い痩せ型、高身長の男性に多いが、月経に伴って女性がなることもある。
- 症状は息苦しさ、胸痛、空咳
月経随伴性気胸? 女性がなったらどうなる?
どんな人が気胸になりやすいのかインターネットで検索してみると、
- 若い男性
- 痩せ型
- 長身
だいたい、この3つがキーワードとして出てきます。
一見すると男性がかかる病気のようですが、以下のように女性がかかることもあります。
- 比較的少数の女性
- 痩せ型
- 生理周期と重なって生じることがある(子宮内膜症による月経随伴性気胸)
- 原因不明
私は発症当時29歳、子宮内膜症の既往もありました。
(詳しくは【卵巣嚢腫手術】体験記をご覧ください)
かなり痩せ型でもあり、女性の平均より背も高く、ちなみにいうと胸もない。
じつは最終的に何が直接の原因だったかはわかっていません。
これから、肺に異変が起きたその瞬間から、治療を終えるまでの体験を記します。
調べても該当患者さんが男性ばかりなので、「オンナもなるんだよー」と知らせたい。
少しでも参考になればと思います。
始まりは、チクッとした痛みから
29歳当時、私は専門学校の3年生でした。
教室で、落としてしまったペンを拾おうと、ぐっと前かがみになったその瞬間でした。
右胸にチクッと感じた鋭い痛み。
「いてっ!」と思わず胸を押さえて深呼吸しますが、大きく息を吸い込むとズキンと痛みが増します。
浅い呼吸だと特に支障もなかったので、違和感を感じながらもその日は帰宅しました。
翌日以降、右胸の痛みにパターンがあることに気づきます。
- 前かがみになる
- 大きく息を吸う
- 右腕を持ち上げる
これをすると打つような痛みが強まるのです。
思わず、胸を押さえて「いたたた…」と声が漏れるほどです。
加えて、かなり特徴的な変化が起こり始めました。
それが、空咳。
風邪でのどが痛いとか、ウイルスを吐き出そうとするとか、そういった咳じゃないんです。
空気が吐き出されるような咳です。
こほん、こほん、と出始めると、肺の酸素をぜんぶ吐ききるまで止まらないような咳です。
最初はときどきでしたが、日が経つにつれ、人と会話していてもむせるように咳が出始めました。
痛みは相変わらず。
咳だけがどんどん出るようになり、それでもすぐに病院に行きませんでした。
自分の状況を深刻に考えてはいなくて、むしろこの不思議な状態を他人事のように感じていたのです。
ようやくかかりつけの内科にかかったのは、あの痛みが起きてから5日目のことでした。
保険証が切り替わったので、そのことを知らせるついででした。
(保険証の切り替わりがなければ、さらに危険な状態になっていたはず)
どうやら肺がしぼんでいるらしい、即日入院へ
かかりつけの先生は、まず風邪を疑ったみたいでした。
体温を測って、のどを診て、鼻に抗生物質の吸入(風邪のときはいつもやるメニューです)をしたところで、
「どうしようか? 一応、レントゲンも撮っておく?」
といわれ、(風邪じゃなさそうなんだよなあ)と自覚していたのでお願いしました。
X線撮影後、診察室に戻ったときの先生の様子はかなり険しいものでした。
この先生、ふだんは少し面白い感じのひとなんですが、このときはけっこう怖い顔。
開口一番、
「息苦しくて夜眠れないとか、なかった?」
「いや、なかったです」
先生はX線画像を指差しながら、
「こっちは左の肺、こっちが右の肺。比べると分かるけど、右の肺がものすごくしぼんでる。ふつう、ここまで小さくなってるとかなり息苦しいはずだよ」
なんと!?(@_@)
このままだと命にかかわるから、すぐに○○病院で受け入れてもらえるか確認するとのこと。
いったんの帰宅も許されず、ソッコーで向かうよう指示されました。
財布と保険証、紹介状だけ持って、着の身着のままタクシーへ。
以前の卵巣嚢腫のときのように、人生二度目の緊急入院を余儀なくされました。
もっと早くに行っておけば…
いや、行ってても経過観察だったかもしれないけどさ。
治療開始、胸腔ドレナージが刺さること刺さること!
病院に到着し、処置室に運ばれると、すぐさま治療が開始されることになりました。
それが胸腔ドレナージという治療方法。
これは、胸腔といって胸骨や肋骨に囲われている部分、肺が収まっている空間にチューブを挿し、肺から漏れ出た空気や水(胸水といいます)を外へ排出するものです。
胸腔から排出された空気は、チューブを通って、連結している箱(チェストドレーンバック)にたまっていきます。
肺から漏れ出た空気が抜ければ、自然と肺が膨らんでもとの大きさに戻ることをねらいとした治療法です。
チューブの挿入口は、私の場合、右わきの下、ちょうどアンダーバストのあたり。
局所麻酔をし、皮膚組織を切開し、チューブを差し込んでいきます。
このとき、かなりの痛みをともないました。
声にならないうめき声が漏れていたと思います。
その日はそのまま入院し、翌朝になると麻酔が切れてきており、右わきがズキズキと痛みました。
それは食が進まないほど。
「そりゃそうよね、からだに異物が入っているんだもの」
と、ベテラン看護師さんが同情してくれて、それがなんだかほっとしたのを覚えています。
この痛みはロキソニンを飲んでやわらげるんですが…
切開部の痛みが治まると、今度は新たな試練の始まりでした。
ベッドに寝ているだけで、なにか針のようなもので背中を刺される感じがする…
ベッドには何もない。
パジャマに羽毛が刺さっていると時々なりますが、そうでもないみたい。
どうやら、からだの内部からの痛みのようでした。
からだの中から背中に向けで、鋭利なものでつんつんと刺されている痛みです。
これは寝ていても立っていても痛い。
看護師さんに相談した結果、刺さっているチューブがからだの神経を刺激しているためとのことでした。
できるだけ痛みの少ない体位を探して、ひたすら刺激が少なくなるように保ちます。
母が図書館から借りてきてくれた十数冊のアガサ・クリスティやアシモフなんかを読みあさりながら、なんとかこの痛みを切り抜けようと必死でした。
一週間お風呂に入れないだけで、皮膚はボロボロ、髪はべったり
一日、また一日と過ぎ、私はずっとチューブにつながれたまま。
シャワーを浴びることもできません。
だんだんからだは汚れてきて、髪はべったり、肌はカサカサ、皮膚は垢が浮き上がってきて皮のように剥がれてきました。
こんな状態はいったい、いつまで続くんだろう…
退院の目安を看護師さんに聞いたところ、個人差がかなりあるのでわからないとのことでした。
以前入院されていた男性患者さんは一ヶ月いたとか。
通常は1~2週間で治る人もいるそうです。
私は期限をまず、一週間と決めました。
一週間あれば治るだろうと。
チェストドレーンバックには相変わらず空気が出ていて、同じく肺から漏れていた胸水もたまっているのが見てわかりました。
とにかく一週間耐えれば何とかなるはずと思い込むことで、自分に力を与えていました。
入院当時、専門学校は春休みで、私は3年間皆勤でした。せっかくだから4年間皆勤したい!
二週間後には学校も始まるし…
それまでには絶対に治っていなくちゃ!!
(けど自分の努力じゃどうしようもない、運です)
7日目、いったんドレナージをストップしてみるが、だめだった
一週間が経つころ、いったん空気の排出を止めてみて、一晩おいて肺がちぢまなけば終了しましょう、とお話がありました。
その夜はチェストドレーンバックの駆動音はありませんでした。
翌朝、早々に目が覚めた私は、一人で起き上がって、ゆっくりと深呼吸をしてみました。
呼吸は特に違和感もなく、胸の痛みもないようでした。
これなら大丈夫だと確信し、先生の診察時間が来るのを今か今かと待っていました。
ところが…
エックス線写真を見た先生は、
「あ~、肺がまたちぢんでますね。もう少し入院が必要かなぁ」
と、ひとこと。
(うそ~!? だって全然苦しくないのに!)
看護師さんの、
「一ヶ月入院した人がいて…」
と言う話がよみがえってきます。
終わりが見えない、真っ暗なトンネルにいる気分、なぜ私が、いったい、どうして私が…
退院時期がまったく読めないこともあって、私は緊張の糸がぷつりと切れてしまいました。
先生、看護師さんたちを前にして、他の患者さんもカーテン越しにいるなかで、大号泣してしまいました。
11日目でチューブが抜ける
息せき切ったような大泣きのあと、気持ちが落ち着いてからは、もう焦ってもむだだと思い知りました。
次回のチェックは4日後です。
それまではもう、心穏やかに過ごすしかありません。
うれしいことに、大変やさしい準看護師さんが私に洗髪を申し出てくれて。
体中ぼろぼろで汚れきっていましたが、あの洗髪は本当に気持ちよかったです。
そして、入院から11日目の朝になりました。
装置は前日から止めています。
起き上がり深呼吸をして、わずかな息苦しさと胸を痛みを感じました。
この瞬間、またダメだったか、とものすごくがっかりしました。
前回のように、先生が胸部の写真を見ます。
そして信じがたいことに、
「うん、肺が縮んでいないようですね。これなら大丈夫そうです」
と———!
こうして入院から12日目に、退院することができました。
結局、私はとくべつに長く入院したわけではなく、だいたい標準的な治療日数だったということになります。
唯一の心残りは、あんなに良くしてくださった方々に、きちんとお礼が言えなかったことです。
退院後の体力低下は尋常じゃない
退院後は日常生活に支障が出るほど、体力の低下を感じました。
数メートル歩くのにもゆっくりで、走った後のような疲労と息切れがしました。
若い人間ですら12日間の入院生活でここまで体力が削られるのですから、高齢者のリハビリがいかに重要かよく分かります。
私は特にリハビリは行わず、いつも通りの生活を送ることで、徐々に体力を取り戻していきました。
退院から一ヶ月が過ぎたころ、一度だけまた胸の痛みと空気のような咳が出たことがありました、すぐに治りました。
結局、私は月経随伴性の気胸だったのかそれはわからずじまい。
その後毎月生理のたびにひやひやしていましたが、いまのところ何も起こってはいません。
あれから10年以上経って
気胸になる女性は芸能人でもかなり少ないようで、たいてい和田アキ子さんの名前が出てきますね。
最近では紗栄子さんもなったようですが、検索すると女性でもなるひと、繰り返すひとはいるみたい。
私はまだ再発していないので幸運かもしれません。
いまのところ、飛行機や体験ダイビングでも影響はなさそうです。
大事なポイント まとめ
女性の皆さん(もちろん男性も)、以下のような症状が出たらすぐに病院に行きましょう。
胸痛:深呼吸する、体勢を変える、腕の上げ下げでズキズキと痛みを感じました。
咳:喉の痛みから来るものとはまったく違います。パンクして空気が漏れるようなむせる咳です。
息苦しさ:これも重篤なほかの疾患でも起こります。大きく息を吸うとき、薄いタオルで口を覆われているような息苦しさがありました。
なんにせよ、異常というのは体からのシグナルなので、それを見逃さないようにする必要がありますね。
体は資本です。
大切にしましょう。