わざわざ眼科で処方箋をもらい、手間とコストをかけて作った眼鏡がどうにも合わない、という経験はありませんか。
実は処方箋で作っても眼鏡が合わないことはあるのです。
正しい手順で対処すれば、時間も費用も最小限に抑えて眼鏡の作り直しができますよ。
眼科で処方箋をもらったにもかかわらず眼鏡が合わなくて困っている方が、より快適な眼鏡を作るにはどうしたらいいかを解説しています。
私は眼科検査のエキスパートである視能訓練士という国家資格を持っており、眼科で約9年勤務しています
視能訓練士になる以前は眼鏡店で4年近く働いていたので、養成校での勉強期間も含めると、16年ほど目と眼鏡に携わってきました。
この間、何千人もの方々に眼鏡の処方をしています。
きちんと見える眼鏡なら気持ちのいい生活を送れますよね。
見え方が悪いとどのような症状が出るのか、よく見えない原因はそもそも何なのか、さまざまな可能性があることを知っておきましょう。
処方箋で作った眼鏡が完璧とは限らない
「眼科の処方箋なら間違いない」という誤解があるのですが、眼科で処方箋を書いてもらったからと言って、満点の眼鏡が仕上がるとは限りません。
実際に使ってみていただかないとわからないためです。
理由①1回の視力検査で100%はわからない
1回検査をしただけで、患者さんを必ず満足させる眼鏡を作れるわけではありません。
眼鏡処方のすべては、経験や理論を踏まえて「予想しながら」行うしかないからです。
仕上がった後の感想を聞かないと、結果的にどうだったのかわかりようがないのです。
とは言え、眼鏡を作製するにあたり、視能訓練士は以下のことを考えながらいま想定できる最適解を出します。
- 眼鏡光学の知識
- 患者さんが欲しい眼鏡の使用目的
- 患者さんが欲しい眼鏡の予想される装用時間
- 眼鏡をかける患者さんの性格
- 自分の経験則
できるだけ患者さんの満足度100%に近い眼鏡になる数値を出すのですが、あくまで完璧に「近い」状態です。
作って生活をしてみていただき、「もっとこうしたい」というフィードバックを頂戴してから、より目的に合う度数にすり合わせていくのが眼鏡処方なのです。
もちろん、たいていは一発で満足度の高い眼鏡処方ができますよ
理由②患者さんも正解がわからない
眼科でも眼鏡店でも、眼鏡処方をするにあたり、必ず装用テスト(気持ち悪くならないかなどの確認)の時間が設けられています。
ところが実生活に置き換えてみると、10~20分ほどの装用テストは短すぎるのですよね。
練習時間が20分程度だと問題を感じないことがあります。
この時点で「くらくらする」といった訴えがあればすぐに対処しますが、大体の方は「大丈夫そう」と答えるため、さしあたりご本人OKの度数で処方となるのです。
結果として、朝から晩まで使っていると「疲れる、合わない」と言った症状が出てきてしまいます。
しかし、装用テストの時間を1時間も2時間もとるのは現実的ではありません。
「ある程度は仕方ない、とりあえず大丈夫そうかどうか」を考えて、眼鏡の装用練習をしてみてください。
理由③視能訓練士の技量にもよる
お恥ずかしながら視能訓練士の技量にも個人差があります。
私は過去に眼鏡店でオーダーメイドの眼鏡製作も経験していたことから、一般的な視能訓練士より眼鏡に関して詳しい自負があります。
視能訓練士の養成校時代、眼鏡光学の授業がありました。
内容は眼鏡屋さんなら知っていて当然のものばかりで、深く理解するには足りません。
実際、視能訓練士の中でも眼鏡への理解が不十分な人はかなりいます。
眼鏡を処方する際は、最適なレンズ度数の選択はもちろんのこと、以下のような聞き取り(問診)が非常に重要です。
- 何のために新しくしたいのか
- 今使っている眼鏡の問題点は何か
- 患者さんが本当に困っていることは何か
ここの詰めが甘いと、フワフワした根拠の眼鏡処方になってしまい、満足度の高い眼鏡が仕上がりにくくなります。
こればかりは腕のいい視能訓練士に当たるかどうか、そのような視能訓練士がいる眼科なのかどうか、ちょっと運要素があります。
それでも眼科で処方箋をもらった方がいい人
眼科で処方箋をもらった方がいい方は一定数います。
- 小学生以下の子ども
- 眼鏡屋で眼科をすすめられた人
- 眼鏡を新しくしたのに見えにくい人
上記のような方々は必ず眼科を受診してください。
子どもの視力検査には「調節力(ピントを合わせる筋力)」が関わってくるため、かなりデリケートな検査が必要です。
また、検査をしても視力が上がりにくい方は、眼鏡店では手に負えないこともあるため、眼科を受診した方がいいですね。
最後に、眼鏡を新しくしたのによく見えないという方も、眼疾患がないか含めて眼科で診てもらった方がいいでしょう。
眼鏡が合わないと出る症状
眼鏡が合わないと以下のような症状が出ます。
- 頭痛
- 肩こり
- 疲れる
- 吐き気
- 目が痛い
- めまい
- ピントが合わない
- 目の周りが疲れる
- 見えているけどなんだか見づらい
注意したいのは、上記の症状は必ずしも眼鏡が合っていないせいだけとは限らないということ。
特に頭痛やピントが合わない状態は脳疾患、めまいは耳鼻科の疾患が由来のこともあります。
ひとまずは眼科を受診してみて、症状によっては他科を紹介されることもあると覚えておいてください。
眼科の処方箋で作った眼鏡が合わない原因
眼科で作ったはずの眼鏡がなぜ合わないのか、具体的な原因は以下の通りです。
度が強すぎた
度が強すぎると一口に言っても、
- 未熟な測り方などによる度の入れすぎ(過矯正)
- その人の順応範囲を超えた度の入れすぎ
以上の二通りがあります。
「最近、他で作った眼鏡なんだけど、合わないんだよね」と眼鏡を拝見すると、なぜかやたら強い眼鏡だったりすることがあります。眼鏡を測る技術が未熟なのか、何かほかに理由があるかはわかりません。
また、一見して度数は合っていても、その人の適応力を超えたレンズ度数だと「強すぎ」になってしまいます。
10段階で言う「10」の強さの眼鏡が欲しい人もいれば、「6」くらいがちょうどいい人もいるのです。
古い眼鏡が「4」の強さだとして、新しい眼鏡を「8」まで上げてしまうと「眼鏡が合わない、強すぎ」になってしまうでしょう。
度数の間違い
度数の間違い(人的ミス)もまれにあります。私も未熟だったころには何度も経験がありました。
処方箋の書き間違い、レンズの発注間違い、レンズの加工間違い(左右逆にする)など、うっかりミスによるものです。
会社や組織全体の信頼性に影響する誤りなので、起こってしまった場合は徹底的に再発防止策をします。
まだ慣れていない
眼鏡を新調した翌日に「合わない」と電話が来るケースがあります。
もちろん本当に合っていないこともありますが、ここはもう少し待ってみましょう。
作った直後の「合わない」はまだ慣れていないだけのことが多いからです。
できれば一週間以上は使ってみて、本当に合わないのか様子を見た方がいいですね。
結果的にやはり合わなかった場合、「何がどう合わないのか」を具体的に説明できるようになります。
具体性が上がると、眼鏡の度数を修正する際にもより満足度の高い度数を求めやすくなります。
フィッティングが悪い
特に遠近両用の眼鏡で多いのが、フィッティングが悪いせいで「よく見えない」パターンです。
遠近両用は黒目(瞳孔)に対するレンズの高さが非常に重要で、上がり過ぎても下がり過ぎてもダメなのですね。
また、眼鏡はフロント部分(レンズがはまっている部分)の傾斜が約10度、レンズの内側(目に近い方)と目(角膜頂点)の距離が12㎜になるよう作られています。
フレームの形状や鼻の形にもよりますが、この基準から大幅にずれてしまうと見えにくさの一因となるでしょう。
度は合っているはずなのに見えないのは、眼鏡店のフィッティングで改善することが多々あります。
レンズの加工がずれている
眼鏡のレンズの中心(光学中心)と黒目の中心(瞳孔中心)がずれていると、「見えているのにはっきりしない」「度は合っているのに見づらい」状態になります。
光学中心から離れるほど、ぼやけたりくらくらしたりする感じが強くなる現象を「収差」と言います。
- 近視や遠視の度が強いほど
- レンズの中心から離れるほど
収差は強くなり、物がぼやけて見えたり気分が悪くなったりするのです。
中心がずれているかどうかは見た目ではわかりませんが、レンズメーターという専用の器械を使えばすぐにわかりますよ。
特に、最近流行っている大ぶりのレンズは要注意。
眼鏡店で光学中心と瞳孔中心を合わせたレンズ加工をしてくれればいいのですが、若い世代が利用する眼鏡店ほど、そこまでしっかりして見てくれない印象があります。
下手をすると眼鏡を一式買い替える必要が出てくる可能性もあるので、フレームを選ぶときは大きすぎるレンズを避けた方がよさそうです。
眼疾患がある
何らかの目の病気があると、「眼鏡を作っても作っても合わない」状態になります。
そもそも、「眼鏡をすると目が見える」のは以下のような仕組みがあるからです。
- 外から入ってきた光が
- 眼鏡のレンズを通り
- 病気のないキレイな目の中を通り
- 一番奥(網膜)まで届き
- 視神経を通って
- 脳(視覚野)に伝わる
この①~⑥のどの流れが遮断されても、よく見えるようにはなりません。
③~⑥は眼鏡ではどうにもできない領域で、ここになにか病気があると「眼鏡を作っても合わない」ことになってしまうのです。
眼疾患がある場合、眼鏡の作り替えではなく根本的な目の治療をする必要があります。
中でも白内障は中高年以降に多く見られる疾患で、80歳以上では「白内障になっていない人を見つける方が難しい」と言えるでしょう。
白内障の有所見率はすべての人種で加齢にともない増加する。 初期混濁は早い例では50歳代から発症し、中等度以上のある程度進行した白内障は70歳代で約半数、80歳以上では70〜80%にみられる。
「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」厚生科学研究補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野)
白内障は進むにつれ、どんどん近視や乱視が増えていくほか、かすみやまぶしさを感じる病気です。
おかしいと思ったらすぐに眼科を受診してください。
処方箋の眼鏡が合わないときの対処法
処方箋の眼鏡が合わないときは遠慮せず相談するべきです。
一週間以上は使ってみる
まずは最低でも1週間、長くても1か月は使ってみましょう。
眼鏡は慣れるまでに早い人で数日、遅い人なら2週間~1か月ほどかかります。
できあがってすぐ「合わない」と訴えても、「もう少し様子を見てください」と言われるのがオチ。
慣れると何事もなかったかのように過ごしている人は多くいます。
それでも合わないときはガマンせず伝えた方がいいですね。
眼鏡が合わないことを伝えるときは、
- 1日何時間くらい使って
- どこを見るときに
- どのように合わないと感じるか
具体的に説明できると解決しやすくなります。
眼鏡店で保証交換してもらう
各眼鏡店は独自に定めた保証期間、保証内容があります。眼鏡店で保証を使う際は以下の手順を踏みましょう。
保証書がないと保証は受けられません
使いたい保証が該当しているか確認します
「眼鏡を合わせ直したい」と伝えればOKです
「レンズを交換したい、処方箋もある」と伝えればOKです
度数を交換する場合は同じグレードのレンズとなります。
もし異なるオプションをつけたり、ハイグレードなレンズにしたい場合は眼鏡店と相談しましょう。
断られるケースと差額で承ってくれるケースがあります。
処方箋は他の眼科でももらえる?
眼鏡の再処方をしたいとき、最初の眼科とは別の眼科を受診して処方箋をもらうことは可能です。
ただし初診料850円(3割負担)が必要。
別の眼科では「その度数の眼鏡を合わせた経緯」がわからないため、患者さん自身がきちんと説明できるようにしておきましょう。
「見えにくいから合わせ直したい、と言い出しにくくて」と遠慮してしまう方もいますが、眼鏡を処方した側としては、作った後の眼鏡のようすを知りたいのが真実です。
クレームをつけられているなどとは思いませんので、できれば同じ眼科、同じ視能訓練士に相談してください。
私は自分が眼鏡を処方した患者さんの感想を聞きたいです
眼鏡の返品はできる?
通常、「度が合わないから」といったお客さん都合での返品は、どこの眼鏡店でも受け付けていません。
レンズの加工にはコストがかかっているからです。
ただし、最近はネット販売している眼鏡店もあり、フレームのみの注文であれば条件付きで返品可能にしている店もあります。
まとめ
眼科での処方箋は必ずよく見えるようになる、と約束されているものではありません。
眼鏡が合わない原因はさまざまあり、度数、フレーム形状、レンズ加工、フィッティングに問題があるか、眼疾患が疑われることもあります。
眼鏡は、視能訓練士が患者さんに問診し、より快適に使えるよう計算しながら処方しています。
見えにくい場合は1週間以上使った上で、遠慮なく相談しましょう。
眼鏡店での保証は「使ったもの勝ち」です。
遠慮していると保証期間が過ぎてしまうので、まずはお手元に保証書を用意し、保証内容を確認しましょう。
見づらいまま放置するのではなく、必ず一度は眼科を受診してくださいね。