若いころ遠くがよく見えた人でも、40歳を過ぎるとだんだんぼやけて見えてくることがあります。
「老眼なのは仕方ないとして、なんで遠くまでかすむの…?」なんて疑問に思いますよね。
目がいいのが自慢だったなら、なおのことショックでしょう。
確かに目の病気である可能性もありますが、多くはメガネ装用などの対処で解決します。
視能訓練士である私は、これまで何度も「遠くが見えない」という人の対応をしてきました。
この記事では目の疾患がない、一般的な「遠視」を例にとり、図解たっぷりで詳しく解説していきます。
「メガネは嫌い!」という人にもおすすめの方法を紹介します!
結論:遠視は遠くも見えなくなる
遠視って言葉は聞きますが、遠視ってなに?遠くが見えるんじゃないの?と思いませんか。
まず結論。
遠視は遠くも近くも見えません。
ただし、がんばれば見えます。
がんばれなくなったら、遠くも見えなくなる。
…は?
(という声が聞こえてきそう)
いつも気を抜かずに働き続けるがんばり屋さんっていますよね。
それ、遠視の人なんです。
遠視はがんばり続けることによって、遠くのものをはっきり見ているんです。
正視と遠視の違い
眼科的な細かい定義は置いといて、超ざっくり正視と遠視の違いをまとめるとこんな感じです。
- 正視:目がいい人
- 遠視:自分は「目がいい」と思っている人
上の図では、正視は網膜上にぴったりと焦点(赤丸)がありますが、遠視は網膜の後ろに焦点がありますよね。
これが正視と遠視の決定的な違いです。
目にはこんなルールがあります↓
網膜上に焦点がないと、はっきりモノは見えない
つまり、遠視は網膜の後ろに焦点があるため、遠くは見えないのです。
しかし遠視の人は遠くがよく見えていますよね。
だから「目がいい」と思っています。
その理由は、目の筋肉に力が入りっぱなしだから。
ピントを合わせるために力を使うことを「調節」と言います。
正視であれば、特にがんばることなく遠くがよく見えます
がんばり続けているのかどうか、無意識なので自分では気づきません。
正視(本当に目がいい人)なのか遠視(努力の結果目がいい人)なのかは、検査しないとわからないのです。
英語で遠視は farsightedness
分解すると far(遠)sightedness(視)
直訳ですね。
「遠視」だとまるで遠くが見えるみたいな呼び名ですが、これが誤解を生んでいます。
英語ではもう一つ言い方があり、それが longsightedness
分解すると long(長)sightedness(視)
先ほどの図を見てもわかるとおり、遠視は焦点までが長い(long)ですよね。
遠視は遠くは見えないので、 和訳は「長視」(造語)にした方が良かったんじゃないかなと思っています (近視は「短視」とかね)
遠視の人が「遠くが見えなくなる」理由
遠視なのに遠くが見えなくなる理由は、調節力が弱くなるからです。
ピントを合わせる力(調節力)のメカニズム
調節力は「網膜の後ろにある焦点を網膜上に来るよう引っぱる力」のこと。
- 毛様体筋(もうようたいきん)が硬くなり、毛様小帯(もうようしょうたい)が緩む
- 水晶体がふくらむ
- 後ろにある焦点を前方へ移動させる
調節のメカニズムは遠視でも近視でも、大人でも子供でもみんな同じです。
ちなみに加齢によって調節力が落ち、近くが見えにくくなることを「老眼」と言います。
調節力が弱くなると遠くが見えなくなる流れ
- 調節力が弱くなる
- 調節力が弱くなると遠視が増える
- 調節力が弱いから遠視の調節ができない
ピント合わせの力である調節力が弱くなると、目は「遠視化」します。
- もともと遠視の人は遠視が増える
- 正視の人は遠視になる
- 近視の人は近視が減る(=「目が良く」なってくる)
その結果、
遠視の人はさらに遠視が増える=焦点がさらに遠ざかる
ため、ただでさえ遠くのぼやけは悪化。
調節力を使ってピントを合わせたいところですが、毛様体筋は衰え、水晶体も膨らみにくくなっています。
つまり、裸眼で遠くは見えなくなります。
遠視が増えるのも遠くが見えないのも、すべては調節力にかかっているのです
調節力がある20歳の遠視の例
20歳はまだまだたっぷり調節力があります。
遠視であっても、瞬時に調節して網膜上にピントを合わせられるため、遠くもバッチリ鮮明に見えますね。
近くを見る時は焦点が網膜のもっと後ろに移動してしまい、このままではぼやけて見えません。
20歳であれば、①毛様体筋も元気で、②水晶体もギューンとふくらむため、③一瞬にしてピントを合わせることができます。
調節力がなくなってきた50歳の遠視の例
調節力が落ちると、人間の目はだんだん遠視が増えていきます。
遠視の50歳は調節力もかなり落ちてきているため、若い頃より遠視が増え、遠くを見る時にもピント合わせに時間がかかります。
しかし時間をかけたところで、網膜上に焦点を持ってくる力もないため、かつてのように遠くが鮮明に見えることはありません。
遠視の50歳が近くを見る時は言わずもがな。
①筋力の衰えから毛様体筋には力が入らず、②水晶体はふくらみにくくなり、③どうがんばっても網膜上に焦点が来ないため、近くは見えません。(老眼)
同じ遠視でも、年齢によって遠くが見えたり見えなかったりするのがややこしいですね
おまけ:近視の過矯正も注意
今回は遠視の話をメインにしていますが、じつは近視の人でもメガネやコンタクトの度が強すぎ(過矯正)だと、遠視とまったく同じ状態になります。
ですから、近視の人が年をとって度の強すぎるメガネなどをしていると、遠くも近くも見えません。
遠くが見えない対処法
遠視で遠くも見えなくなってきたら、メガネかコンタクトレンズを始めるしかありません。
ほかにも遠視用や遠近両用のレーシック、眼内レンズなど自由診療の治療はあります。
しかし手術のリスクや経済的な負担があるため、今回はメガネ/コンタクトレンズに絞って紹介します。
おすすめは昼コンタクト夜メガネ
どうしてもメガネが嫌!!という人には、
昼間はコンタクトレンズで夜はメガネ生活
をおすすめします。
メガネが嫌な理由って、
- 似合うメガネがない
- メガネのレンズが分厚くて嫌
- ファッションに合わせるのがめんどくさい
- マスクでくもる
- 視界が狭い
- ダサい
などなどありますよね。
だったら日中は遠視用のコンタクトレンズをしましょう。
メガネ嫌いさんのすべての問題はコンタクトで解決します。
コンタクトのつけ外しの練習はかなり大変ですが、メガネが嫌ならやるしかないです。
ただし、コンタクトレンズは一日中つけていいものではありません。
目の乾きや不快感があるほか、汚れや傷によって目にダメージが生じることもあります。
というわけで、自宅で過ごすときはメガネデビューをしてみませんか?
人目を気にしなくて済むし、マスクでくもることもない。
室内であれば、メガネのデメリットをほとんど考えなくていいですよ。
メガネに抵抗がなければ、メガネ一本に慣れた方が経済的にはお得です
メガネをしたら目が悪くなるのはウソ
「メガネをしたら目が悪くなると思って…」
と本当によく聞きますが、誤解ですよそれ!
誤解ですよ、それ!!(二度目)
近視なり老眼なりが進んでいるのは、ただあなたの目がその過程にあるからです。
メガネとの因果関係はありません。
遠くが見えにくいからメガネなりコンタクトレンズを装用したとして、だんだん度が進んでいったとしても、それはメガネなどのせいではないのです。
ちなみに
メガネをかける前は0.8だった裸眼視力が、メガネをしたら0.7に下がることがあります。
これはメガネのおかげでがんばらずに済むようになったから。
0.7が本来の視力だったということです。
元に戻っただけなんですが、これも「メガネ犯人説」が広がる原因の一つかもしれません
まとめ
- 調節力が弱くなる
- 調節力が弱くなると遠視が増える
- 調節力が弱いから遠視の調節ができない
40歳を過ぎて遠くが見づらくなる理由は遠視だからです。
これまで遠くが見えていたのは、知らないうちに調節力を使っていたから。
年を取り、調節力が落ちると遠くも見えなくなるのです。
そして残念なことに、これから先、裸眼視力は下がる一方でV字回復することはありません。
(白内障手術などは別。あくまで遠視のみの話)
コンタクトレンズ+メガネデビューは、体が少しでも若いうちから始めるべきです。
始めてみて後悔することは絶対にありませんので、お近くの眼科に相談してみてください。
メガネ/コンタクトを始めると、ほんっと楽になりますよ!!