昼間は気にならなくても、疲れてくると物がダブって見えることはありませんか?
意識すると元に戻るけれど、ぼんやりするとまたダブってしまう…。
それ、もしかしたら隠れ斜視かもしれません。
隠れ斜視は「間欠性外斜視(かんけつせいがいしゃし)」と言います。
特徴は物が二重に見えたり目の疲れを感じやすくなったりすること。
きちんと対処しないと日常生活にも支障が出ます。
この記事では斜視検査のプロである視能訓練士が、ダブり方の違いや対処法を詳しく解説します!
少しでも参考になれば幸いです。
本記事は「脳や全身疾患がない前提」で解説しています。斜視を疑う場合は必ず眼科を受診して、ほかに病気がないことを調べてもらってください。
モノがダブって見える原因
物がダブって見える原因はたくさんありますが、主に次のような理由が挙げられます。
- 乱視
- 斜視
- 眼疾患(白内障など)
乱視はほとんどの人が持っている「屈折異常」であり、たいていは乱視用のメガネやコンタクトレンズで矯正できます。
斜視に関しては、脳腫瘍や糖尿病など目以外の病気から起こることもあるのが怖いところ。
病気がある場合はその治療が優先されます。
しかし、健康な人でも斜視の要素を持つ人はかなり多いんですよね。(私もその一人)
そこで、ざっくりと「ダブりの原因」のフローチャートを作ってみました。
細かく分けるといろいろ分岐点が増えてしまうので、あくまで簡単に分けたものです。
重要なポイントは
片目か?両目か?
で分けること。
今回の記事では右から二番目の「間欠性外斜視の可能性」を重点的に解説します。
間欠性外斜視(隠れ斜視)とは
間欠性(かんけつせい)外斜視とは、
- 間欠的に(ときどき)
- 外斜視(目が外を向く)
になる目のこと。
要するに、いつもはまっすぐ向いているけど、ときどき斜視になる目のことです。
斜視になっている状態のときに、物が二重に見えます。
間欠性の斜視には外斜視と内斜視がありますが、一般的には外斜視で使われることが多いです。
(内斜視は内斜視で、鬼のように分類がたくさんある…)
恒常性か、間欠性かの分類は外斜視で通常用いられる。
出典:『視能学』(文光堂)
※「恒常性」とは「ずっと、常に」の意味
ちなみにアジア人には外斜視が多いと言われていて、香港眼科病院(Hong Kong Eye Hospital)において、
「外斜視は内斜視の二倍多いが、欧州や北米では内斜視の方が外斜視よりもっと多い」
と報告されています。
(参照:National Library of Medicine )
斜位と間欠性斜視の違い
間欠性外斜視とよく一緒に登場するのが「斜位(しゃい)」という状態。
ふたつは似ていて少し違います。
斜位では物がダブって見えることはありません。
まずは正常な目の位置(正位)の図はこちら↓
片目を隠しても、隠された目の位置は変わりません。
(自分ではわかりません)
つづいて、斜位と間欠性斜視のちがいを図で表したのがこちら↓
どちらも隠された目は外を向き、
手を離すと一瞬でまっすぐに戻るのが外斜位。
手を離してもいったん外向きのまま止まり、その後まっすぐに戻るのが間欠性外斜視です。
外向きのまま止まっているのは瞬間的なこともあります。(それでも「一瞬ダブって見える」のが間欠性斜視)
斜位は斜視の要素を持っているけれど、外見の変化や自覚症状は何もありません。
一方、間欠性斜視は斜位よりも斜視の要素が強く出て、外見の変化や自覚症状もともないます。
実は日本人の多くが「斜位」の性質を持っているんですよ。
斜視と斜位の頻度は、日本人では、おおむね斜視は2%、斜位は50%とされる。
出典:『視能学』(文光堂)
引用文の「斜視」はときどきではなく「常に斜視」の状態のこと
自覚症状がないのでほとんど気づかないだけなんですね。
斜位が悪化して間欠性斜視になると自覚症状も出てきます。
間欠性外斜視(隠れ斜視)の症状
間欠性外斜視の主な症状は、
- ときどきダブって見える
- 眼精疲労がひどい
です。
ダブりは常にあるわけではなく、
- ぼーっとしているとき
- 疲れたとき
- 眠いとき
に現れます。
(このとき斜視になっているということ)
両目をまっすぐに向けようとする意識がないときや、意識はあるけれど疲れてしまって筋肉を動かせないときにダブります。
そして、
常に「まっすぐにしなきゃ」と筋肉を働かせているので、超疲れる!
結果的に、眼精疲労から眼痛、頭痛、肩こりは慢性的に感じやすくなります。
ダブりを感じなくても眼精疲労がひどいなら「もしかして隠れ斜視かも?」と思って眼科受診してみてもいいです
実はダブって見えることは悪いことじゃないんです。
ダブるというのは、両目の機能がしっかり根付いている証拠。
「斜視になっているのにダブって見えない」方が問題です。
斜視なのにダブって見えない人は、メガネや手術で対処しても治りにくいです。
目の位置が正常な人には想像もできないくらいの眼精疲労や頭痛に悩まされるため、マッサージは欠かせません。
現在私はアイマッサージャーのLa Luna(ラルーナ)を使用中。
目の筋肉のコリがほぐれ、血流が良くなるため、眼精疲労の解消に手放せなくなりました。
乱視?斜視?ダブり方の違い
乱視と斜視ではそれぞれ「ダブった見え方」が違います。
「正常の見え方」も載せたので、3つをよく見比べてみてください。
乱視のダブり方
乱視の特徴は次の通りです。
- 片目で見てもダブって見える
- 乱視用のメガネをかければダブりは解消する
斜視のダブり方(複視)
斜視でダブって見えることを「複視(ふくし)」と言います。
複視の特徴は次の通り。
- 片目で見ると解消する
- 意識すると複視がなくなることもある
「片目で見ると解消する」のは、斜視は両目で物を見るときに起こる状態なので、片目のときは関係ないから。
「意識すれば複視がなくなる」というのは、意識すれば目がまっすぐに向いているからですね。
「乱視+斜視」の人もふつうにいます。検査ですぐわかりますよ
ダブって見えるときの対処法
ダブって見えるのは本当につらいですよね。
ここではその対処法を5つ紹介します。
- プリズムメガネをする
- 過矯正メガネをする
- トレーニングする
- 手術する
- 疲れを取る
プリズムメガネをかける
「プリズム」という、光を曲げる性質をもつレンズを使うことで、
目は外に向いたままでも、脳内で映像を一つにすることができます。
「どういう意味??」って感じですよね(^-^;
普通のメガネのレンズは、光が真っすぐに通過します。
ところが、プリズムレンズだと通過した光がカクンッと曲がるのです。
光を曲げるプリズムの性質を利用して、複視の改善ができるんですよ!
左側の外斜視になっている目には光がずれて入ってくるので、両目の中心で物を見ることができません。(=ダブって見える)
右側の眼球の前にある三角形の物体がプリズム。
プリズムを当てると、目の位置はずれたままでも、ずれた目の中心に向けて光を曲げる効果があります。
結果として両目の中心で物を見ることができるため、ダブって見えることがなくなるのです!すごい!
プリズムは根本的に斜視を治すものではなく、あくまでダブり(複視)をなくすための手段ですね
このプリズムをメガネのレンズに組み込めば、プリズムメガネのできあがり。
どこのメガネ屋さんでもオプション料金(だいたい約3千円~)を追加すればやってもらえます。
過矯正メガネをする(近視の場合)
近視の場合、本来の度数より強めのメガネ(過矯正メガネ)をかけると、目をまっすぐに維持しやすくなります。
※遠視の場合は低矯正
これは、
度の強い眼鏡をかけると、寄り目をしやすくなる
という原理を利用した正攻法。
- 過矯正メガネをすると焦点が目の後ろに移動する
- このままではぼやけるので、ピントを合わせる(調節する)必要がある
- 調節すると目は自動的に寄り目になるようにできている
「ピント合わせと寄り目はセット」と覚えてください
この方法は未就学児~30代くらいまで有効で、目の位置がずれにくくなるほか、ずれた目の位置を正面に戻しやすくなります。
ただし、初めてメガネをかける人やこれまで弱いメガネしか使ったことのない人は慣れにくいでしょう。
このような人は、まずは遠くがしっかり見えるメガネ(過矯正ではない)をかけることから慣れた方がいいですね。
また、この過矯正メガネで目の位置を保持するやり方は、老眼世代には効果がありません。
老眼は調節力がなくなるので、
調節(ピント合わせ)できない=「自動で寄り目」につながらない
からです。
私も間欠性外斜視があるためずっと「過矯正メガネ+プリズム」を使っていますが、30代後半にもなるとそろそろ限界を感じてきています。
調節力がなくなって(老眼になって)きたら、プリズム量を上げるか手術しか選択肢はなくなりますね。
トレーニングをする
寄り目のトレーニングで間欠性外斜視を治療する方法もあります。
ただし、年齢制限もあるので注意してください。
学会の発表『間欠性外斜視に対する視能訓練』によると、上限は40歳までと考えた方がよさそうです。
視能訓練の開始に際しては、患者自身が訓練の必要性を理解し、訓練方法を習得する必要がある。
このため年齢は、8歳から40歳くらいまでが適応となる。
8歳以下の低年齢では、十分な理解力があれば行うことができる。
40歳というのは、老視があると遠近両方の距離における訓練は難しいためである。
引用:シンポジウム『間欠性外斜視に対する視能訓練』松本富美子 近畿大学医学部堺病院眼科
トレーニングは寄り目をして近くのものをしっかり見る必要があるので、老眼になるとこの条件をクリアしにくくなります。
20代、30代の若い方なら挑戦する価値はありますが、適応になるかどうかも含め、斜視外来や斜視の専門医のいる眼科へ相談してみましょう。
眼科に行かず、自己判断でやるのはやめておきましょう。かえって眼精疲労を起こす可能性があります
手術をする
プリズムメガネでも矯正しきれない角度や自覚症状の間欠性外斜視では、残すところ手術するしかありません。
眼球には6本の筋肉がついていますが、間欠性外斜視の手術に関わるのは主に、
- 外直筋(目を外側に動かす)
- 内直筋(目を内側に動かす)
のふたつ。
眼球にくっついている筋肉の付け根を、前や後ろにずらして斜視の角度を減らします。
斜視手術にかかる費用は、3割負担で約1万5千円~5万円ほど。
成人なら日帰りでできますが、術後は痛みが出ることもあるので、仕事は数日休んだ方がいいかもしれません。
手術前後の生活については、手術を受ける眼科にきちんと相談してください
斜視手術は個人クリニックで行っていることもあれば、大学病院に紹介されることもあるため、まずは通いやすい眼科を調べてみるといいですね。
疲れを取る
「プリズムとか過矯正とかワケわからんし、まだそんなのいらない!」
「トレーニングとかめんどくさっ!」
「手術なんてもってのほか!!」
…と、ちょっと激しめに抵抗される方には一言。
ゆっくり、休みましょう。。。
隠れ斜視がある人は、とにかく目が疲れやすいのです。
仮眠をとるなり、ゆっくり湯船に浸かるなりして休憩できれば、また目をまっすぐに戻す力が戻ってきますよ。
まとめ
同じ「二重に見える」でも乱視と斜視ではダブり方に違いがあります。
間欠性外斜視は眼精疲労の原因になりやすいため、早めの対処をおすすめします。
プリズムメガネが合えば劇的に楽になりますよ!
もし眼科に行かずメガネ屋さんへ行くなら、「両眼視検査」をしっかり行っているお店にして下さい。
ネットやSNSでよく探してくださいね。
プリズム量を測定し、プリズムメガネを処方するのにはかなりの技術が必要のため、若者向け格安店はあまりおすすめできません。
間欠性の外斜視は年齢とともに増えていく傾向にあります。
うまく対処しながら長いお付き合いをするしかないでしょう。